こんにちは、シーウィード@こびとが見える経理マン(@kobito_kabu)です。
突然ですが、皆様は「賃貸併用住宅」というものをご存知でしょうか?
こんなやつです。
(出典:賃貸併用住宅.jp)
んなわけあるかい~!
こういう広告を出しちゃうと、投資リテラシーの高い読者の皆様がげんなりして回れ右しちゃう気がするのですが、しばしお付き合いくださいませ。
あるところにはあるんですよ奥さん。世の中、うまい話ってのが。
なぜ自宅がタダで手に入るのか?賃貸併用住宅の仕組み
これまで、一般のサラリーマンの方々にとっては、都内の一等地に自宅を購入することは非常に敷居の高い話でした。
しかし、住宅ローンの一部を家賃収益が肩代わりしてくれる『賃貸併用住宅』プランを利用すれば、例えばこれまで手が出なかったような都内の人気エリアに一戸建てを所有しても、普通に住宅を購入する場合と比較して、圧倒的に少ない費用負担で自宅を購入することが可能となります。
また、ローン返済後も家賃収益はそのまま残りますので、老後の安定収入源として利用し、将来の暮らしに大きな安心と余裕をもつことができます。
(出典:賃貸併用住宅.jp)
賃貸併用住宅さえ建てられれば、将来は安心!安定の人生を手に入れたも同然です。経済的な悩みからはもう解放されるのです。
というわけで、この素晴らしい賃貸併用住宅の5つのメリットを詳しく見てみましょう。
賃貸併用住宅の5つのメリット
メリットは下記の通り。
- 首都圏の人気エリアに実質無料でマイホームを持てる
- オーナーの理想を実現する自由設計
- 将来の年金代わりになる!
- 生命保険代わりになる!
- 通常のマイホーム取得に比べてローリスク!
順番に見ていきましょう。
1.首都圏の人気エリアに実質無料でマイホームを持てる
普通のサラリーマンにとって、首都圏の人気エリアに戸建てを持つことは非常に困難です。
しかし、賃貸併用住宅なら家賃収入がローン返済額を減らしてくれるので、大幅にローン負担が軽減されます。プランによっては、家賃収入がローン返済を上回ることもあります。
利便性の高い人気エリアで戸建てを保有することで、通勤も子育ても楽になるに違いありません。
2.オーナーの理想を実現する自由設計
オーナーの希望に合わせて、オーナー居住部分と賃貸部分を自由に設計することが可能です。
賃貸併用住宅なら、建売住宅や中古の投資アパマンでは手の届かないようなかゆいところまで、しっかりとケアすることができます。
お金を稼ぐあなただけの城を築くことができるのです。
3.将来の年金代わりになる!
通常の住宅の場合、ローン返済が終わるメリットは「家賃負担がなくなる」ことだけです。
しかし、賃貸併用住宅の場合、ローン返済が終わった頃には家賃収入がまるまる自分のモノになります。
これは、自分年金とも言えるものです。自分が設計した自由度の高い住宅で快適な暮らしを達成しつつ、+αの年金が得られるのです。
4.生命保険代わりになる!
ローンを組んで住宅を購入すると、生命保険代わりになります。
ローンで物件を購入する場合、団体信用生命保険(団信)に加入することになります。
団信とは、ローンを組んだ人に万が一の事態があって亡くなった時、保険会社がローンの残債に相当する保険金を金融機関に支払ってくれる為、家族にはローンの返済が終わった自宅や収益物件だけが残り、その後も安定した生活を送ることができます。
一般の生命保険でこれだけの充実した補償を得ようとすると、かなりの額の保険料が必要となります。
(出典:賃貸併用住宅.jp)
※これについては、賃貸併用住宅に限った話ではありませんね。普通に戸建てやマンションを買っても同じ話です。
5.通常のマイホーム取得に比べてローリスク!
通常の住宅ローンの場合、返済原資はあなたの給与だけです。もし給与やボーナスが減額されてしまった場合、とたんにローン返済が苦しくなります。
一方、賃貸併用住宅の場合は家賃収入がありますから、返済原資が2種類あることになります。この返済原資の分散により、リスクの低い運営ができるということになります。
となれば良いのですが…
ここまでのお話は、賃貸併用住宅で語られる一般的なメリットです。
仲介業者だけではなく大手ハウスメーカーもこのような謳い文句で営業しています。私、住宅展示場に乗り込んでガッツリ議論しましたからね、某社の営業さんと。
賃貸併用住宅をススメている投資本を読んでも、このようなメリットが長々と語られています。
では、賃貸併用住宅に落とし穴はないのでしょうか?
以降、賃貸併用住宅の落とし穴について見ていきたいと思います。
賃貸併用住宅の5つのデメリット(落とし穴)
お次はデメリットです。次の通り。
- 収益性が低い
- 出口が見えない(流動性が低い)
- 運営に独特のリスクがある
- 家賃収入があるぶん、生活の快適さが失われている。余分なリスクを負っている
- ローンの期間があまりにも長すぎて実態にそぐわない
1.収益性が低い
賃貸併用住宅は、「住宅ローン返済をどれだけ軽減できるか?」という点に目が奪われがちですが、もう少し高い視点から物件を俯瞰してみます。
つまり「オーナー居住部分も含めてすべて賃貸に出した場合にどれだけの収益が得られるか?」という視点です。
先ほどの事例を再掲します。
ここで、ワンルーム2室は7.5万円×2室=15万円という設定になっています。
オーナー部分を貸し出すとすると、1部屋13万円と仮定しましょう(1平米あたりの家賃は、面積が広くなればなるほど下落しますので、ワンルームと同様に15万円では貸せません)。
この物件の家賃収入は28万円となります。ローン返済額が19.4万円ですから、差し引きの収益は8.6万円です。家賃に新築プレミアムが載っている状態でこの収益性です。
空室(都心一等地という設定らしいので、空室率についてはそこまで悲観的に見ていませんが)が1室でもあれば、すぐにでも持ち出しになりそうな水準です。
月額家賃が28万円とすると、年間の家賃は336万円です。取得価額は6,800万円ですから、表面利回りは4.9%(336÷6,800)です。
都内の新築で、表面利回り4.9%。
ここから固定資産税や運営費・所得税などを払っていくわけですから、不動産投資としてはとてもじゃないですがペイできる水準とは思えません。
※比較対象として必ずしも適切とは言えませんが、アコモデーションファンド投資法人など、都心の超一等地でレジデンシャルを構えているREITに投資すれば税引後手残りが3%を超えます。表面利回りではなく、税引き後の手残りです。
収益性が低くなっている要因は、この2つ。
- オーナー居住部分の収益性が低い
- ハウスメーカーなどに利益を抜かれすぎている
要するに割高なのです。
ハウスメーカーの決算書を見れば、彼らがどれだけ儲けているかすぐに分かります。彼らが儲けている分、オーナーは割を食っているのです。
賃貸併用住宅は、トータルで見れば収益性が低いと言わざるをえないでしょう。
2.出口が見えない(流動性が低い)
普通の戸建てであれば、実需層(自分自身で住みたい人)に売却できます。
普通の投資用アパマンであれば、投資家層に売却できます。
では、賃貸併用住宅は一体誰に売却できるのでしょうか?
実需層にはとてもじゃないですが売却できないでしょう。彼らが求めているのは夢のマイホームなので、すぐ隣(上下)の部屋が賃貸住宅などというのは耐えられないでしょう。
投資家層に売却できるかというと、それも難しいと考えています。なぜなら、上で見た通り収益性が低いからです。利回りの水準から言って、投資対象になりえないのです。
結局、賃貸併用住宅は、そのエリアで賃貸併用住宅が欲しい人にしか売れないということです。
ものの本やサイトを見ると、「希少価値があるから売れる」と書いてありますが、私はそうは思いません。その希少価値は、自分の望む通りの設計をして建築したオーナーにとっての希少価値だからです。
供給は少ないですが、需要も同様に少ないというのが私の見立てです。
ライフスタイルは人によって千差万別なので、前オーナーの居住部分が次のオーナーにとっての理想の住まいと合致しているということはめったにないと思います。
うちの近所で、賃貸併用住宅の売りが2件出ていますが、1年以上たなざらしです。
流動性が低いということは、株式や不動産にとって最大のリスクとなりえます。買い手が限られているということのリスクを十分に認識すべきです。一蓮托生でどうにかする、というにはあまりにも大きすぎる金額です。
※プロではない一般の購買層は、賃貸併用住宅が十分に流通し始めて、独自の市場を形成されるまで様子見した方が良いと個人的には思います。いつになるか分かりませんが。
3.運営に独特のリスクがある
それは、オーナースペースと賃貸スペースが隣接していることによるリスクです。具体的には
- 賃貸付けの問題
- 音の問題
- 共用部の問題
などです。賃貸付けの問題は、普通に考えて隣もしくは上下に大家が住んでいる物件に住みたいですか?という話です。
気にしないよ!という人がいるのはそうだと思いますが、一方、気になりますという人がいるのも事実です。それだけでハンデを負っていると考えていいでしょう。
※昔、業者さんに聞いたところ、隣に住んでいるのがオーナーであることを隠すために業者に間に入ってもらって、不動産業者名義で賃借人と賃貸契約を結んでいるオーナーがいると伺いました。こういうめんどくさいことすると、どうなるか分かりますよね。また、業者に利益を抜かれることになるわけです。
音や共用部の問題は、賃貸併用住宅が「自分の夢のマイホームを兼ねている」からこそことさら大きく取り扱われるデメリットです。
賃貸併用住宅では、トラブルがあった際に「しょうがなく自分が引っ越す」という選択肢は基本的にはないと思われます。
騒音や共用部の使用の問題に対して、当事者として全力で取り組む必要があります。これは、夢のマイホームを建てた!と思っている人にとっては相当なストレスになるのではないかと思います。
4.家賃収入があるぶん、生活の快適さが失われている。余分なリスクを負っている
当たり前なのですが、賃貸に出している部分はもし自分に十分な資金があれば「自分の生活のために使えたスペース」です。
収益を得るために不必要に増設したスペースともいえるでしょう(そのことによって新たなリスクを負ってしまっている)。
本来自分の生活のために使えたスペースを、賃貸スペースとの兼ね合いで削り、または設計を調整したことで日常生活の導線がどのようにおかしくなってしまうのか?
その点については、実際に賃貸併用住宅を建てて失敗した!と言っている人のブログや話を聞くことで分かると思います。
3とも関連する話なのですが、家賃収入が得られることで失っているものがある、という認識は必ずしておいた方が良いと思います。
5.ローンの期間があまりにも長すぎて実態にそぐわない
賃貸併用住宅の最大のメリットは、住宅ローンが使えるところにあります。ところが、裏返すとこいつが一番のリスク要因であり、賃貸併用住宅の価値の算定を難しくしている要素でもあります。
通常のアパマンローンは、物件の収益性・資産価値をもとに銀行が評価を行います。貸し出せる額や借入期間は物件の収益性で決まるのです。
一方、賃貸併用住宅の場合は物件からの家賃収入だけではなく「あなたの給与」が返済原資に組み込まれるため、物件が優良だから銀行がお金を貸してくれているとは必ずしも言えない状況になります。
物件はよくないけど一流企業に勤めているこの人ならお金を返せるだろうという試算でお金が貸し出される可能性があるのです。
※だから、普通であれば25年くらいでしか組めないような(25年で組むべき)ローンが、35年などという長期で借り入れられる
賃貸併用住宅のプランを提案されたことがある方は、ぜひローンの期間を10年ほど短縮してみて下さい。きっと、到底回らない収支計画になります。
それはつまり、物件だけの力ではローン返済がままならないという現実をあらわしています。
物件が優れているのではなく、あなたの給与水準が安定していて高いから貸してくれているだけなのです。ここを勘違いすると、10年後や20年後にひどいめにあうでしょう。
土地の資産価格や家賃の下落を、あなたの給与で支えるハメになります。賃貸併用住宅運営の特有のリスクがあるため、下手すると通常の住宅ローン返済だけよりも重いストレスになる可能性があります。
これに困るのは賃貸併用住宅の建設オーナーだけです。
ハウスメーカーは建築時点で利益を抜いているので大笑いです。最初の10年間(特に頑張らなくても賃貸付けができる期間)、サブリースなどを契約していればさらにウハウハです。
銀行も大笑いです。なぜなら、ローンはあなたの給与からも返済されるからです。はじめからそのつもりで貸しています。貸倒れになるリスクは低いですし、担保もとれています。
困るのはオーナーなのです。
自宅がタダで手に入るどころか、10年20年後には家賃の下落によりローン返済が厳しくなりはじめ、空室も目立つようになり、修繕も必要になってきます。それでもローンの支払額は建築初年度と同じです。
2で見た通り、出口も厳しいです。勤務先にしがみついてローンを一生懸命返すしかありません。
先ほどの事例でいえば、建築初年度も、20年後も、同じ19.4万円を返済する必要があるのです。20年後には、不必要に増築してしまったスペースがあるため、そこからさらに維持費もかかるし高い固定資産税も払い続けなければならないというわけです。
こういう状態ですから、信用は毀損されていて次の物件を買うための信用余力に乏しくなっているでしょう。
賃貸併用物件はつまるところ自宅ですから、個人的にはこれをローンで買うことは不動産投資を進める上でハンデを負ったと考えるべきだと思います。
繰り上げ返済を頑張ればリスクが減らせるので頑張って下さい!
業者はそう言いますが、そんなこと当たり前です。そもそも、繰り上げ返済なんかしなくても、適切なローン期間で適切に回る物件を探せばいいのです。
そういう状況でする繰り上げ返済に意味があるのであって、「繰り上げ返済しなければ絶対に回らない物件」のために一生懸命頑張るのは本末転倒です。買い物が間違っているという他ありません。
物件が良いんじゃないんです。あなたの人的資本が優れているんです。
そこを忘れてはいけないと思います。
まとめ:というわけで、賃貸併用住宅はあきらめた
誤解のないように申し添えておくと、賃貸併用住宅の仕組み自体に問題があるとは言っていません。
上手にやれる人はいるでしょうし、仕組みとしてはなかなかうまくできたものだとは思います。
最近はブログが更新されていませんが、なぐたさんなんかは、うまく運営されているようですしね。
※但し、この方は例によって高属性エリートサラリーマンで共働き。妻の父が不動産投資家という背景をお持ちです。仕入れた土地の立地が素晴らしく、購入した時期も良かったため長期で戦えそうな印象です。)
私の考えでは賃貸併用住宅は「上級者向け」の不動産運用です。
実需にも投資にも両方詳しくて、特定のエリアに精通していて、資金力・経験が豊富な人でないとマネジメントできないのではないかと思います(そういう人は、普通に投資物件を買うでしょう)
マイホームの購入だけでも失敗する人がいる世界ですからね。マイホームも上手く買えて、投資物件も上手く回せる人じゃないと、賃貸併用住宅は運営できません。
個人的な結論としては、賃貸併用住宅を建てるよりは、「希望に80%合致した居住用賃貸+高収益アパマン」がより優れた落としどころなのではないかなと思います。
高収益のアパマンをゲットできれば、その物件からの家賃で都心の一等地に持ち出しなしで住める可能せがあります。
年齢や家族構成によって居住スタイルはどんどん変わりますし、賃貸であればあらゆるリスクに対応することができます。優れた投資物件であれば出口も豊富です。「賃貸+投資物件保有」で良いんじゃないかと。
以上、数年前に賃貸併用住宅の建設を検討し、かなり多くの業者と面談した結果、建築をあきらめた経理マンの所感です。建築・設備に関する知識も乏しいですし、私に扱える案件ではないと判断しました。
不動産市況と業界の進歩をチェックすべく、いくつかの業者の営業マンとの付き合いを続けていますが、わたしが相棒の電卓を叩いて納得できるプランを持ってきたところは未だにありません。
最後に。
それではまたっ!
※関連記事です
Follow @kobito_kabu