こんな疑問に答えます。
こんにちは、こびと株(@kobito_kabu)です。
経理歴10年超の経理マンですが、証券アナリスト有資格者でもあります(本名を検索すると、アナリスト協会の名簿にも出てきます)。
この記事では、自己資本比率を題材として「財務指標」の良し悪しを判断する方法を解説します。
結論は、下記の通り。
結論:「自己資本比率は50%が目安」なんて、あんまり役に立たない情報。
下記の視点で立体的に判断すべき。
- 「過去」と比べる
- 「同業他社」と比べる
- 「理想の姿」と比べる
目次
題材:自己資本比率の目安はどれぐらい?
株式投資をやっていると、下記のようなことが気になる人もいるでしょう。
- 自己資本比率50%って、高いの?低いの?
- 営業利益率10%って、高いの?低いの?
- ROE8%って、高いの低いの?etc…
※こういった指標のことを「財務指標」と呼びます。
株式投資の本や、財務分析のテキスト・ネット記事などを見ていると、
- 目安は〇%ぐらいです
と書いてるところもありますが、その根拠はいたって不明瞭。モヤモヤを抱えている人も多いのではないでしょうか(私はずっとモヤモヤしてました)。
この記事では、トヨタの自己資本比率37.6%を例に、財務指標分析の基本を解説します。
分析のポイントは『複眼的』に見ることです。
- 「過去の自分」と比べる
- 「同業他社」と比べる
- 「理想の自分」と比べる
この3つの順で、具体的に見ていきましょう。
前提:自己資本比率とは
※自己資本比率が何か知っている人は、ここは読み飛ばしてOKです。
本題に入る前に「自己資本比率」とは何かについて解説しておきます。
自己資本 ÷ 総資産
一般に、自己資本比率が高ければ高いほど、財務が安定している優良な会社と見なされます。
イメージ図はこんな感じです。
(出典:ダイヤモンド・オンラインより)
自己資本比率が高いということは、負債が少ないということです。
負債が少なければ、利息の支払い・借金の返済負担が軽くなり、経営が安定します。
こういった背景があるので、
- 自己資本比率は高ければ高いほど良いのか?
- 何%ぐらいなら安心できるのか?
上記のようなことがみんなの関心事になるわけですね。
①過去の自分と比べる
まず、①過去の自分と比べるという目線で見てみます。
トヨタの過去10年間の自己資本比率の推移は次の通り。
このグラフを見ると、過去10年間で自己資本比率が上昇トレンドにあることが分かります。
- 過去10年間にわたり自己資本比率が右肩上がりで、現在37.6%のトヨタ
- 過去10年間にわたり自己資本比率が右肩下がりで、現在40.0%のA社
あなたなら、どちらの自己資本比率が優れていると判断するでしょうか。
40.0%のA社の方が安心だと、そんなに単純に判断できるでしょうか?
②同業他社と比べる
次に、同業他社と比べてみます。
国内上位5社の、2021年3月末時点の自己資本比率を比べてみるとこの通り。
トヨタは下から2番目の水準です。
5社平均が37.1%ですから、37.6%という数字は平均以下のレベルだということが分かります。
他社の10年トレンドも調べてみると
- トヨタの自己資本比率は、業界水準に追いついてきたのか
- トヨタの自己資本比率は、業界水準から離されてしまったのか
さらに細かな分析ができますね。
こういう分析ができると、各社の財務戦略の違いが見えてくるはずです。
※こうやって比べて見ると、日産だけがズバ抜けて低い水準にあることが分かります。自己資本比率が低いということは負債が大きめ(=より大きなリスクをとった経営をしている)ということですから、何かやっちゃおうとしているのかもしれませんね。
③理想の自分と比べる
「理想の自分」というのは、理論的な理想値のことです。
理論的な理想値というのは、こういうイメージです。
- 宝くじで1億円当たった
- もう会社をやめて、働かないで暮らしたい
- 働かないで暮らすには、年間300万円ぐらい必要
- 年間300万円を利息で得るには、年利3%で運用し続ければ良い
- 結論:目標の運用利回りは3%
ここでいう「3%」が、理論的な理想値です。
- 過去何%の利回りで資産運用できていたかとか(最初に説明した視点)
- 周りの人が何%で資産運用しているか(2番目に説明した視点)
こんなことはまったく関係ありません。理想値が分かっているのなら、それを目指せば良いだけの話だからです。
さて、それではトヨタの「自己資本比率の理想値」はいくらでしょうか?
それを考えるのがトヨタの財務部のお仕事というわけですね。ちなみに、自己資本と負債の理想的な比率のことを最適資本構成と言います(単純に無借金の方が良い!というわけではないのです)。
会社によっては中期経営計画などで、理想(目指すべき)の数字を公表してたりします。こうやって目標値をちゃんと公表している企業は好感が持てます。が…自己資本比率の理想値を出してる企業はほとんどないですね。
※この点、「最適資本構成の理論的な導出方法は提示されておらず、各企業が手探りで模索しているのが現状」です(グロービス経営大学院:MBA用語集より)。そのうち、偉い学者が新しい理論を発表するかもしれません。
このまま話が終わるとつまらないので、もう少しだけ話をしましょう。
最適資本構成を考えるひとつのヒントになるのが「ROE」です。
株主から預かったお金をどれだけ効率よく事業活用できたかを測る指標。
Return On Equityの略称で和訳は自己資本利益率。企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合。 計算式はROE=当期純利益÷自己資本。
トヨタの「自己資本比率」と「ROE」の推移を見比べてみると、下記のようなグラフになります。
右に進むにつれ、ワニの口のように開いていますね。乖離しているということです。
- 自己資本比率:36%→37%に上昇
- ROE:10%弱→9.5%弱にやや減少
これの意味するところは、トヨタは
- お金をたくさん稼いで、自己資本比率を高めた
- お金をたくさん稼いだけれど、それを上手く活用できず、経営効率はやや落ちた
ということです。
投資の世界では、ROEは超重要指標です。ROE=利益÷自己資本ですから、分母である自己資本が減ればROEは上昇します。
自己資本を減らせばROEは上昇しますが、それに伴って自己資本比率は低下するでしょう。しかし、ROEを重視するのならそれでも良いという結論になります。
つまり、ROEを重視する目線では、トヨタの自己資本比率37.6%は高すぎるということですね。
オマケ:過去・周り・理想との比較という視点は応用がきく
今まで見てきたように、とある「指標」の良し悪しを判断する時には、以下の視点が役に立ちます。
- 過去の数字
- 周囲
- 理想の数字
例えば、自分の「貯金額」が良い感じなのか悪い感じなのか判断する場合。
- 5年前は貯金ゼロだったけど、今は毎年70万円貯金できてる
- 周りは年間30万円ぐらい貯金してる
- 老後を考えると、年間50万円は貯金できればOK
これなら、年間70万円というペースがめちゃくちゃ優秀だということが分かります。
多くの人は②しか見ないで勝手に不安になったり優越感に浸ったりしてますが、それだけではあまり意味がないですね。
仮に周りより貯金額が少なくても、過去の自分の貯金ペースより上がっていれば自分をホメてあげるべきです。トレンドが右肩上がりなら、いつかゴールにたどり着けるからです。
逆に、周囲の人よりも多く貯金できていても、それが理想値より少なければもっと頑張らなくてはいけません。
まとめ:自己資本比率は何%が目安とか、そういうのはない
話があっちこっち行ったので、最後にまとめて終わります。
自己資本比率は50%以上ならOK。という数字に深い意味はありません。
下記の目線で、複眼的に分析することが重要です。
- 「過去の自分」と比べる
- 「同業他社」と比べる
- 「理想の自分」と比べる
これは、言い換えるとこういうことです。
- 過去の自分を分析してトレンドをおさえ
- 今の自分が置かれた立場を俯瞰してとらえ
- 未来の理想の姿との乖離を把握する
自己資本比率にせよ、営業利益率にせよ、ROEにせよ、どんな財務指標であっても、こういった目線で複眼的に分析することが重要です。
この考え方は、
- 自分の貯金額
- 自分が払ってる保険料の金額
- 自分が払ってる家賃の金額
こういったものが「妥当な水準かどうか」分析するときにも役立ちます。ぜひ応用してみてください。
それではまたっ!
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